「図書館内乱」有川浩 (角川文庫)

2015-08-15

有川浩

t f B! P L


 わずか八日間で有川浩の「図書館戦争シリーズ」を読了してしまい、灰原士紋は困惑していた。己の遅読ぶりを誰よりも知っているだけに、その驚きは並々ならぬものだ。だがそれ以上に、読後の余韻が心地よく思われた。
 そこへ心の友、はるのっちが口を差し挟んできた。
「意外とラブコメとか好きだったんだねぇ」
 うるさい。黙れ、このオカマ野郎。いつもの灰原なら、そう言い返してやるところだったろう。だが、今回は言い返せなかった。
 というのも、自分が本当はラブラブなストーリーも大好きな人間だというのに、自分でも知らないうちにそのことをひた隠し、己は硬派であると自分に言い聞かせ、己を欺いてきただけにすぎない、ということに気付いてしまったのだ。
 しかし灰原も揶揄されてそのまま黙っている口ではない。読み終えて机の上に積んでいた単行本を掲げ、ラブコメだけの話ではないことを主張した。
「確かに全体的には、テレビのゴールデンタイムに放送されるようなドラマ仕立てのお話ばっかりさ。ご都合主義もいいところだと糾弾されかねんところはある。でも押さえるべきポイントだって、俺はちゃんと押さえてある!」
 そう言って灰原は該当ページを開き、はるのっちに見せた。


「ここだ。〈『子供だまし』って! 『子供だまし』ってバッカじゃないの! あったりまえじゃないのよ、子供のために書かれた本だっつの! 横から大人がしゃしゃり出て『大人の鑑賞には耐えない』とかさぁ、オモチャ屋で戦隊ロボ捕まえて『これは大人の嗜好に耐えない』とか言ってるのとおんなじくらいバカだって気付け! じゃあ買え、ASUMOでも何でも存分に!〉」
 灰原は声を出して、その部分を読み上げた。その直後、恥ずかしさで耳まで顔を赤くした。
「ほほぉ。なるほど。確かにこういうバカな人って、実際にいるもんねぇ。そういう人種に言って聞かせてやりたいよね、私なんかじゃなくってさ」
 そう言ってはるのっちは目を細めながら、本当におかしそうに笑う。今にもwww(うぇっうえっうぇっ)とでも声を出しそうだ。
 くそっ! くそっ! とはらわたの煮える思いで、灰原は次巻の「図書館危機」を、はるのっちに見せるように持ち上げた。(続く)
読書期間:始)2015.4.18 ~ 終)4.20

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