あらすじ
東京発・盛岡行きの東北新幹線に乗り込み、指示された荷物を奪って次の上野駅で降りる。
ただそれだけの簡単な仕事のはずだった。
はずだったのだが……。
七尾が奪った荷物は、今一番仕事ができると言われるコンビの殺し屋、蜜柑と檸檬が運んでいたものだった。
そして七尾は不運にも上野で降りることはできなかった。
ひとまず荷物を隠してさらにもう一駅やりすごそうとしていたら、隠したはずの荷物が消えていた。
この荷物の奪い合いに首を突っ込んできたのが、王子という悪意の塊のような中学生。
東京発・盛岡行きの東北新幹線は、いつしか東京発・地獄行き新幹線へと変貌していたのだった。
殺し屋小説「グラスホッパー」の続編という触れ込みを耳にして、手に取りました。
前回の「グラスホッパー」はいまいちな感じだったので、あまり期待はしていなかったのですが、これはいいですね。
「グラスホッパー」とは段違いによくなっています。
話のテンポは「モダンタイムス」に近く、小刻みに話の小さな山がやってきます。
伏線の張り方と回収はいつも通り、隙がありません。
「グラスホッパー」の続編とは言っても、話は独立してますので、「マリアビートル」だけ読んでも楽しめます。
もちろん「グラスホッパー」を読んでおくと、一部の登場人物の背景を知ることができて、より深く楽しめるかと思います。
「グラスホッパー」伊坂幸太郎 (角川文庫)
伊坂幸太郎「グラスホッパー」あらすじ。妻を轢き逃げされ、復讐を目論んでいた鈴木、依頼を受けて対象の人物を自殺させる殺し屋「鯨」、ナイフを得意とする若き殺し屋「蝉」、彼らはそれぞれの思惑から「押し屋」という殺し屋を追い始める。彼らの物語が交錯する時、果たしてその辿り着く結末に明るい未来はあるのだろうか
あと前作との時間の隔たりの中で、描写が大きく変化してますね。当時は持って回ったり、勿体ぶった情景描写などが多くて、話のテンポがあまりよくなかったと思うんです。
そういう描写がかなり簡略化されて、結果としてそれが読みやすさに繋がっているのかな、と感じています。
マリアビートル (角川文庫)
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伊坂さんのここ最近の難点としては、今までの伊坂作品で登場したキャラと似たような人物ばかりになってきたことでしょうか。
人のすることですから、こういうマンネリ化というのはどうしようのないものなのかもしれません。
また伊坂さんはこれまで多くの作品を書いてきてますので、ある程度は書くテーマというのは絞られてると思うんですよね。
あの時のキャラで本当はここまで書きたかったけど、書けなかった。
今ならあのキャラにこういう結末を用意してやりたかった。
長く作家をしてると、そんな気持ちも湧いて来るんではないでしょうか。
それがあの王子という、人の悪意を集めて人形に塗り固めたような中学生だと思うんですよね。
彼は「オーデュポンの祈り」に出てきた城山に非常に良く似ているんです。
むしろ当時では城山を使って描き切れなかった悪意というものを、今回の「マリアビートル」で王子という少年を使って描こうとしたのではないかと。
そしてその王子が発した「どうして人を殺してはいけないのか?」という問いに対しての鈴木の解答が秀逸なんですよね。
ここにその引用を書きたいところですが、数ページに渡る文章ですから、これは実際に手に取って読んでもらった方がいいかと思います。
いずれにせよ非常に面白く読めた一冊でした。
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