短編のお手本とも言えそうな完成度の連作短編小説です。
語り手は、千葉と名乗る死神です。
物語における死神の仕事は、七日後に死ぬ予定の人間を調査して、「死」を実行するのに適しているかどうかを判断し、その最終判断を上の部署に報告することです。
本作では、その調査の過程で出会う人々の、人生の一端をして、寓意的な物語が描かれます。
六編から成る中で、一番好きな話となると、「恋愛で死神」です。
この話に限らず、どの話も死神が登場する話なので、生や死について考えさせられる部分が少なくありません。
その中でもこの話が、最も正面から考えさせられると思うからです。
人は遅かれ早かれ、いずれ死にます。善人か悪人かを問わず、死は平等に誰にでも訪れます。
人の生には本来意味などありません。
その延長である死にも、当然意味はありません。
人はただ生まれてきて、ただ死んでいくだけです。
ですが、人は自分の生に何らかの意味がある、と思い込みたい生き物なのではないでしょうか。
生に意味があるのなら、その延長である死にも自ずと意味がある、という考えに至ります。
そう考えることで、人は恐るべき死を迎え入れられるようになるのではないでしょうか。
漠然と迎える死には、人は意味を見出せません。
生の単なる終焉として、ただ忌避するべきものとして捉えます。
ですが、何かのために己の意思で行動した結果として、死が訪れるような場合、人はそれまでの生に意味を見出せるのだと思います。
自分はこのために生まれてきたのだと。実際のその有無など関係なく、自分なりに意味付けできるかどうかが重要なのです。
死神の精度 (文春文庫)
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全編に渡って、人間と死神の差を原因とした、物事の見え方や解釈の違いから生じる名言や迷言が笑いを誘います。
また死神にも個性のようなものがあるようで、千葉というキャラがまた面白さを引き立たせます。
六話目の「死神対老女」では、「人間と言うのは、眩しい時と笑う時に、似た表情になるんだな」と何とも感慨深い台詞を残して、最後を締め括るあたりなど、心憎いばかりの死神です。
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