あらすじ
上杉彰彦はゲームブックの原作公募に、間違えて規定の四倍の枚数の原稿を書いて応募したが、選考委員から、「これほど膨大な分量を書ける熱意は十分、評価に値する。素晴らしい才能だ」と、認められるはずも無く、あっけなく失格となった。
だが上杉のこの作品をアーケードゲームの原作に使用したいという申し出をしてきた会社があった。
それが株式会社イプシロン・プロジェクトだった。
現実同様のシミュレートが体験できる疑似体験装置「クライン-2」を使った、今までにない全く新しいゲームの原作として使わせて欲しいというのが、その申し出の旨だった。
上杉彰彦は大いに喜んで契約し、原作者としてゲームのテストモニターにもなるのだが、ある日、もう一人のテストモニターが謎の失踪を遂げるのだった。
「クラインの壺」という表題が示す通り、どちらが現実でどちらがゲームなのか判然としなくなる話です。文章は読みやすく、扱う内容も悪くないと思います。
今から24年前の作品として考えると、完全な疑似体験装置という着想は当時は非常に斬新なものだったのではないでしょうか。
事実、現在はこの手の着想を使った多くの作品が生まれています。そう考えるとこの「クラインの壺」は、一歩先行く作品だったと思います。今読んでも十分楽しめますからね。
クラインの壺 (新潮文庫)
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ただ後味がいまひとつといった結末と、丁寧に読めばきちんと手掛かりが残されてあり、どちらが現実なのか判る人には判るのではないか? という思いがするところが残念です。その謎の解き明かしを読者に委ねる形の小説だったのかもしれません。
個人的には現実と仮想現実が裏返る箇所を、伏線を最後に回収する形で指摘する方が読者を驚かせることができたようにも思います。
もちろんさりげない伏線と、劇的なその回収というのは非常にテクニカルなものなので、はい、そうですかと言ってできるものではないのでしょうけども。
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