灰原は思った。
いないなら、自分がそのあほっぽい女になればいいんじゃないか?
はるのっち誕生の瞬間である。
しかしこの時、灰原は一つの大きな誤算に気付いていなかった。
自分がはるのっちになれたとして、「図書館戦争」の堂上と郁のような恋愛ができるわけではないということに。
当然だが、自分がはるのっち役をしたならば、一体誰が灰原役をするというのか。
一人では帰宅後、プロレスごっこでじゃれ合う堂上と郁みたいな恋愛ができるわけがない。
そう。一人では何もできないのだ。
そのことに灰原は気付いていなかった。
つまりバカである。
「昔の話を聞かせて」
怪我に気を付けるように堂上が郁に言うと、見せる相手は(堂上)一人しかいないから、という理由で「大丈夫」と答える郁。
堂上としてはそうではなく、せっかく綺麗な体なのに勿体ないだろうと言いたいところだが、そんなことをさらりと言える柄ではない。
その上相手は直球以外は理解できない妻、郁である。
女としても十分上等なのに「戦闘職種で足を引っ張ってるかどうか不安で泣き出すようなところが、俺も結構好きだしな」と心配することを諦める堂上。
灰原は物語を追いつつ、そんな気障なことを言える男か、俺は?と自問自答する。
かと言ってはるのっちとして、郁みたいな可愛い女になれるのかと言うと、それも甚だあやしい。
読み終えた灰原は、布団の上で身悶えながらゴロゴロ転がるのであった。
うおお!うらやましい!俺もそんな恋愛とか結婚とかしたいわ!
「背中合わせの二人」(1)~(3)
堂上と郁のような恋愛が無理でも、手塚と柴崎のような恋愛ならばどうだろうかと灰原は思い返す。
まず見た目が無理よな、うん。
どっちも美形だから。
柴崎を抱きしめ、ノーブラの感触にどぎまぎする手塚に「いいよ。あんたなら嫌じゃないみたいだわ、あたし」と言う柴崎。
互いに告白し合い、
「あたしを大事にしてくれて、あたしが大事にしたいような人は、あたしのことなんか見つけてくれなかった!」
「俺が見つけた。自信家で皮肉屋で意固地で意地っ張りで大事にしたいお前のこと、やっと見つけた」
手塚の言葉に柴崎は泣きじゃくりながら「大事にして」を連呼し、自分も手塚のことを大事にしたいと口走る。
そんな手塚と柴崎のような二人もいいな。そんなふうになりたい。
しかし残念ながら、灰原はやはり一人であるのだから、これも無理な話である。
再び灰原は布団の上で身悶えながらゴロゴロ転がるのであった。
うおお!うらやましい!俺もそんな恋愛とか結婚とかしたいわ!
灰原士紋。アラフォー男子、時々女装。いまだ独身である。(終わり)
読書期間:2015(H27).4.25~4.26
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