あらすじ
物心もつかない年頃の少女エリンは、真王(ヨジェ)が治めるリョザ神王国の闘蛇村で暮らし、幸せな日々を送っていた。
だが大公(アルハン)の闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に、その幸せな日々は終わりを告げた。
エリンは母の決死の術によって死地を逃れた後、蜂飼いのジョウンに拾われて九死に一生を得る。
その後エリンは生き物の不思議さに興味を覚え、またジョウンもエリンのその才能に思うところがあって、王獣学舎の長となっている旧友のエサルに彼女を託す。
ある日見た王獣の魅力を忘れられずにいたエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指す。
野生の王獣と心を通わせることのできる少女エリンの数奇な運命の物語が幕を開ける。
今回読んだ上橋菜穂子さんの「獣の奏者」は青い鳥文庫の(1)~(4)までで、これらは現在、講談社文庫から出ている「闘蛇編」と「王獣編」に相当する部分である。
ジャンルは児童文学ということもあり、話の筋はシンプルで子供向けではあるものの、使用される言葉遣いは若干子供向けとは言い難い。
作品の出来としては先に読んだ「精霊の守り人」よりも、主人公に親近感が持てて読みやすい。
これは主人公が幼い少女であるということが深く関係しているのかもしれない。
見知った少女の成長を見守るような気持ちで、話の続きを読みたくなる。
テレビでモモクロのメンバーを見る時、姪っ子の活躍を見るような気持ちになるのと近いのかもしれない。
本来ならこの4冊(「闘蛇編」と「王獣編」)で完結していた物語だったそうである。
そのことを踏まえた上で言うと、結末としては話の収まりがよろしくない。
何かもやもやとした終わり方なのである。
「精霊の守り人」の方が、読者が納得できるようなすっきりとした締め方をしている。
ただ多くの読者からの要望があって、現在は続編としてこの結末から11年後のエリンたちの物語が描かれている。
青い鳥文庫であれば(5)~(8)、講談社文庫であれば「探求編」と「完結編」がそれにあたる。
ついでに言うと「外伝」まで出ており、私はそれら全てを読み終えている。
読了時期が今回とは異なるので、感想はまた後日に回すつもりでいる。
作者のあとがきを読むと、偉人伝に熱中していた頃、特に「キュリー夫人」が大好きで、知りたいと思ったことをひたむきに追い続ける姿を、今回のエリンという少女に落とし込んだらしい。
知的な欲求を純粋に追求する姿は美しいが、その追求は必ずしもいい結果だけを生むとは限らない。
それでも知りたいことを追求するその姿は美しい。
作者の感じたそのことを読者に伝えたかったそうだ。
一読者である私はと言うと、そういう美しさよりも幼い頃のエリンの可愛さと、権力に抗えない民たちの非力さと物悲しい諦め感ばかりが目についた。
ファンタジーという舞台の特性上、荒唐無稽な話にならないように配慮されたのかもしれない。
だけど現実は意外と物語よりもドラマティックで、予測不可能な展開を見せることがしばしばある。
児童文学であるなら、むしろそういう現実を動かす人々の姿や読者が現実に希望を持てる内容を描いた方が望ましいのではないかと思った次第である。
読書期間:2015(H27).5.5~5.9
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