今回もレクター博士は多くの人間を殺害します。ですが彼は快楽殺人犯や殺人中毒者というわけではありません。 彼の中の価値基準に照らして、生きる値打ちがないと判断した者を、またある時は、彼を追い詰める者を返り討ちにして殺害します。
しかし、ではなぜクラリスは殺されないのか。
クラリスのことを好きになってしまったから?
シンプルな理由ではあるけども、恐らくそう説明する方がわかりやすいかもしれません。しかし、ではレクター博士は彼女のどこに魅了されたのか、という疑問が持ち上がってきます。
そこを読み解くことが、最終的にはレクター博士の料理に供される者の人選が、どういう基準によるのかというところに繋がるのだと思います。
我々にとってはごく普通のありきたりな人生も、彼の目には生への冒涜、すなわち許しがたい罪に映るのです。だから殺す。
私たちも恐らく彼同様、自分なりの倫理観や道徳観を持って生活しています。その中で許しがたい事象や人間に出会ったとしても、社会の法を重んじ、私刑を行うことはありません。
彼にはその「社会の法」という歯止めがない。
このことが、読む人によっては彼はただの人殺しだ、と言わしめることもあれば、逆に自らの憤懣を代行して晴らしてくれていると感じる読者を作り出しているのではないでしょうか。
ハンニバル(上)(新潮文庫)
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本作はパッツイ刑事の最期と、クレンドラーの前頭葉の晩餐シーンがあまりにも凄惨過ぎて、他の場面の印象が薄れてしまいます。
実際には、いろいろな哲学的思索を私たちに見せてくれるのですけども、あいにく先の二つの場面の衝撃が大きすぎて、頭に入りにくかったですね。それに加えて、著者のトマス・ハリスは決して上手い作家ではないからだとも思っています。
私はフィレンツェの街の描写が好きでした。いつか実際のフィレンツェをこの目で見てみたいなぁ、と感じました。作品の内容に照らすと、そんな暢気な感想をよく持てるな、と言われてしまいそうですけども。
感想短歌
子羊が勇気を出してミイラ取り
行きはよいよい 帰りは怖い
読書期間:始)2014.11.1 ~ 終)12.14
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