短編の名手が手掛けた、本格推理小説風連作短編です。いわゆる安楽椅子探偵物で、大雑把な基本パターンとしては、語り手の刑事が迷宮入りしそうな事件を、探偵役である方丈和尚のところへ持ち込む。そして和尚の助言をもらい、事件を解決に導くという筋立てです。
全体として、恐らく駄作の部類に入る出来栄えかと思います。第一に和尚の推理の基となる質問が、まず酷いのです。そして推理の道筋がまた酷いのです。
一話目。本書のタイトルにもなっている「Aサイズ殺人事件」です。この「Aサイズ」とは女性のバストサイズを指しています。
一人の女性が殺され、その犯人がわからない。まず被害者である女性のことについて、あれこれ質問する和尚。そこで分かったのが、被害者である女性は三人の男性と肉体関係があったということ。そこから類推すると仮にもう一人、四人目の男がいても不思議ではない、そこまではいいのです。ですがそれと女性の胸のサイズは関係ないだろう、というのが正直な感想です。
二話目。和尚が知りたかったことは、前入居者のことと部屋にベランダがあるかどうか、という点です。にもかかわらず、ペットがどうだとかベランダに何があるだとか、和尚の質問そのものが読み手を煙に巻くのを目的としているようにしか思えません。
三話目。重要なのは死んだ男のネクタイではなく、靴の色とその靴を奥さんが覚えているかどうかということなのに、ここでも読み手をはぐらかすためだけのような質問を和尚はします。
四話目と五話目は、この手の推理物では邪道扱いされる「犯人が複数人」というパターンに至ります。五話目ではさらに酷いことになります。滋賀の雄琴が出てきて、そこから犯人は風俗で働いていた経験のある女性、という迷推理を見せます。風俗業は雄琴にしかないのですか。むしろ雄琴には風俗業しかない、とでもいうのですか。そもそも犯人が風俗経験を持つという推理をどこから導き出したのか、さっぱり不明です。
Aサイズ殺人事件 (文春文庫 (278‐2))
posted with カエレバ
不思議系の話を語ることにかけては名手として知られる著者でも、畑が違うとここまで酷くなるのかと思い知らされました。
感想短歌
こじつけの推理を見せる和尚さん
読者の推理を邪魔したいだけ
読書期間:始)2014.12.22 ~ 終)12.25
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