四人組の銀行強盗たちの活躍(?)を描く、初期の伊坂幸太郎氏の著作です。
初期の著作ということもあって、やや透けているところがあります。
それでもやはり伏線の置き方とその回収の手際は見事です。
まず主人公たち四人組は銀行強盗ですから犯罪者です。
ですが彼ら四人は、決して悪人というわけではない、というところが読者に受け入れられやすい要素ですね。
ただしストーリーや話の盛り上げ方は月並みと言っておきます。
これは氏の作品全般に言えることで、この著作も本筋から見れば瑣末と言える細部にこそ味わいがあります。
例えば響野という四人組の一人と、その仲間の雪子の息子、慎一の次のようなやり取りです。
いじめを受けている同級生の救出を響野に求める慎一が、弱肉強食について訊ねる場面です。
動物の世界は弱肉強食の世界であり、足が不自由な動物などは強者の餌となってすぐに死ぬ。
それと同様に人間も弱い奴が虐められるのは当然だ、と彼の友人たちが話している、ということを響野に告げます。
果たしてそうなのか、と響野に訊ねるのです。
対する響野の答えは、こうです。
「ライオンが弱いライオンをいじめ殺すか? 弱いライオンは確かに死んでしまうかもしれないが、それは自然にそうなるだけだ。仲間内で食い合ったりしない」
「強いだとか弱いだとかは、何によって決まるんだ? (中略)弱肉強食とほざいているお前の友達は自分より強い奴に殺されることを良しとしているのか? 身体の頑丈さや足の丈夫さで決まるって言うんだったら、慎一、お前は今から四輪駆動の車に乗って、そいつらをはねてくればいい。『パジェロに潰される弱い奴らは死ぬのが当然だ』と教えてやれ」
「どうしてライオンがガゼルを食うかと言えば、食わないと死ぬからだ。弱肉強食ってのは食物連鎖に参加している者たちが口にする台詞だよ。自分が死んでも誰の餌にもならないような、食っても美味くもないような中学生が『弱肉強食』なんて言う権利はないんだよ」
中学生に教える内容としては、結構過激なものですね。
また別の場面で四人組の一人、久遠が口にする台詞も感じるところがあります。
「動物は強者に従うけど、人間は強そうな人に従うだけなんだ。絶対的な強さなんて分からないからね。強そうな人とか、怖そうな人とかさ、そういう『強そうな』っていう幻想に騙されちゃう」
陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)
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うむうむ、と思わず共感してしまいます。
私が思うこの作品の最大のミステリーは、四人組のリーダー格である成瀬の息子タダシ君です。
彼は近い未来に成瀬が見舞われる危機を予知していたのか。
それを示唆するために電話を掛けたのか。
読み手の解釈に委ねられた部分ですね。
とはいえ素直に解釈すれば、予知して示唆するために電話を掛けてきたと思えます。
でもやっぱり真実は闇の中ですね。
感想短歌
気にするな 金は天下の回りもの
生きてる実感 ロマンはどこだ
読書期間:始)2014.12.26 ~ 終)2015.1.5
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