まず、この作品は怪談集の類いではありません。
日本の昔話は今に伝わる形になることで、人間の怖さ・醜さを別の形に変えてカムフラージュされている、そのカムフラージュを著者なりの解釈で、本来どんな話だったのか解き明かしましょう、といった趣旨の内容です。
個人的には「かぐや姫」の解釈が、なかなかいいのではないかと思いました。現在とは異なる慣わしを理解していないと、この話は良く分からない箇所が多い話だと思います。
例えば五人のやんごとない位の男たちから求婚されて、それを断るために無理な難題を提案するなんて、何と我儘な女だろう、竹取りの翁もいくら可愛い娘だからといって、姫を甘やかしすぎなのではないか、果ては帝の求めすらも断るとは何と高飛車な女だろう、当時の慣わしや因習、風俗、時代背景、それらを何も知らないと、このような誤解が生じてしまうのが、「かぐや姫」なのではないでしょうか。
当時の地方の村社会は、女性が家督を継ぐ母系社会であったということ、さらに彼女には不思議な力があり、巫女的職務に就いていたのではないかと想像できます。それに対して、求婚してくる男性たちは、その地位を考慮すれば、婿入りのできる立場ではありません。また巫女という職務にある以上、帝以外の求婚を受けることもできない、ということが挙げられます。
ところが当時の帝周辺といえば、平安貴族の権力争いの絶えないところです。そのようなところに、何の後ろ盾もないかぐや姫が、帝の求めに応じて足を踏み入れれば、権力を争う貴族たちによって潰されることは火を見るより明らかだったのではないか。それ故にかぐや姫は、帝の求めにも応じることができなかったのだろう、というのが著者の見解のようです。
そして彼女が月に帰っていったという件は、かぐや姫の死を婉曲的に伝えたものだったのではないか、という指摘も私は妥当のように思えます。
もちろん、ただのファンタジー的な創作だったのかもしれません。ですが、かぐや姫の一見するとただの我儘に見える振る舞い一つにしても、母系社会という慣わしの説明がなければ、恐らく現代の人たちは、彼女の姿を見誤ってしまうのではないでしょうか。
昔話に限らず、物語を読み解くという作業は、時代を読み解く作業なのかもしれません。
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