妖怪の登場する、ファンタジー時代小説といった趣きの作品です。
一般的に妖怪と言えば悪さをするもの、というイメージが付き纏います。ですが本作に登場する妖怪たちは、悪者というよりも、むしろ中立的な立場の精霊のような存在に近いかもしれません。
とはいえ、中にはやはり人間に害を為すものもいて、主人公の一太郎は、そのような妖怪と戦うことになります。
というのも、半ば自分の特殊な生い立ちが原因で、妖怪が人々に害を為すという事態になったのだから、それを自ら収拾するのは道理だ、という理屈で戦います。
ですが一方で、もし彼が所詮は他人事と、その厄介事に関わることを避けるような態度をとれば、彼は自分の存在を人間界から消されることになる、という半ば退治を強いられている部分もあります。
思うに、この辺りの理屈に著者の考えが見え隠れしているような気がします。自分のケツは自分で拭け。それができないのなら、人間社会から消えてしまえ。そんな思いを感じました。
しゃばけ(新潮文庫)【しゃばけシリーズ第1弾】
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本筋とは関係のない部分では、世の中は中々思い通りにいかない、などと小難しいことを一太郎とその友人の栄吉は話します。この辺りの内容が本筋ともっと絡んでくると、もう少し深みのある面白さが出てきたかと思います。
もう少しで付喪神になれそうだったのになれなかった墨壺は、世の中が思い通りにならずに未練を残しました。そうして諦め切れずに世の中に対して抗いました。
人間の方はどうかというと、行儀良く現状に甘んじる姿が描かれます。この辺りは対照的な姿勢が見られます。ですが、実際には何かを諦め切れずに、人様に迷惑を掛けてでも、思い通りにならない世の中に対して抗うような人間は結構います。
そういった人に相応しい妖怪の名を付けて、祓い落とす。そうなれば、黒い着物を身に纏った憑き物落しの人の出番です。もちろんこの作品には登場しませんけども。
今回の墨壺同様に何かに執着し、諦め切れない人にこの墨壺は魔が差すような形で取り憑き、悪さを仕出かす、という筋での妖怪退治の話の方が、全体的な話の収まりはよかったかもしれません。
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