「論文の書き方」清水幾太郎 (岩波新書)

2014-09-26

学術・教養

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 文章とは何か、という本質的なことについて、私がはじめて考えさせられる契機になった本です。初読はかなり以前で、今回わざわざ買い直して、改めて読み返してみました。

 いわゆるハウツー本とは全く異なります。もしそういうお手軽ハウツー本を求めているなら、お勧めできない内容です。ですが同時に、文章について何も考えを持ち合わせていないなら、むしろ読んでおくべき本かとも思います。

 特に「『あるがままに』書くことはやめよう」の章は、文章を書くという行為そのものが、世界の創造に等しいものだと思い至らせてくれます。そこから素直に類推すれば、創造とは決して楽して簡単にできるものではない、ということにも思い至ります。


 空間に存在するもの、例えばある風景や部屋の様子などを、見たまま書こうとすれば、名詞の羅列になってしまいかねません。詳細な様子、色や形状、状態、匂い、質感、それらのものまで書こうとすれば、一場面を描くために何枚の原稿用紙が必要になることか想像もできません。これらを言葉にするということは、目に映るものの内、何を採り上げ、何を省くのかという作業でもあります。

 さらに言葉は一語一語順番に書く必要があります。ですが、実際に目に映る物体には順番はありません。全て同時に目に映っています。例えば「赤い林檎が皿の上に乗っている」と書くか「皿の上に乗っている林檎は赤い」と書くかで少し意味合いが変わってきます。

 目に映っている状態は同じでも言葉にすると、前者では「乗っている」ことが強調されていますし、後者は「赤い」ことが強調されていることになります。文章を書く際には、そのことを意識して、何に焦点を当てるべきか考えなければなりません。

 また、これは認知言語学の領域にも入ってくる内容になりますけども、「皿の上に林檎がある」状態は、別の見方をすれば「林檎の下に皿がある」とも言える訳です。
 言葉にする、文章にするというのは、認識している世界を自分の脳内で再構築する行為であると同時に、自分がどのように世界を捉えているか、という自己と世界の関係についての再認識でもあるのです。「論文の書き方」は、こういったことに気付かせてくれる良書だと、改めてつくづく思いました。

 最後に余談ですけども、プロ野球ニュースなどで「巨人阪神戦」と書くか「阪神巨人戦」と書くかで、伝える側がどちらのチームに重きを置いているか、なんてことも読み取れる訳です。

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