前作「巷説百物語」同様、山岡百介が語り役となって、主人公又市の活躍が描かれる連作時代小説です。
戦後間もない昭和を舞台にした百鬼夜行シリーズでは、主人公の中禅寺が事件の謎の部分を妖怪に見立て、相応しい名前を与えた上でその正体を解き明かします。その結果、謎は解体され、憑き物は落ちていくという仕組みです。それに対して又市は、全く逆の手法を使います。狂言芝居を打つことで、謎や不思議をでっち上げ「これ皆、妖怪の仕業也」として、事を八方丸く収めます。
一話完結と云う点は、前作と同じです。異なる点は、今回は完結しつつ連作として次の話に繋がっていき、最終的には大きな一篇を成すような構成になっていることです。「野鉄砲」では又市の協力者である山岡百介の生い立ちや、又市一味の治平の過去について、「狐者異」では同じく又市一味のおぎんの過去が描かれ、掘り下げられていきます。「船幽霊」では御燈の小右衛門の出自が明かされ、「飛縁魔」では後に登場することになる、女悪党白菊の過去と残忍性が語られます。「死神」では、それまで名前だけしか出て来なかった小右衛門までもが登場し、遂に又市一味たちは総力を挙げて、本来敵うはずのない大悪党達と対峙することになります。
連作ですので当然一話毎に話の山があり、きっちり盛り上げては落ちがつきます。しかし回を追う毎に伏線が追加され、次の話が大変楽しみになります。最終的には連作小説であるにも関わらず、全く壮大な一篇の物語が、目の前に立ち現れてきます。
続巷説百物語 (角川文庫)
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個人的にはこの「続巷説」が、百物語シリーズ中で最高の内容だと思っています。「続巷説」の最後に収められている一話「老人の火」は、「死神」の後日譚として語られます。とは言え、私には対決する二人の老人の心情を汲むことはできませんでした。ただこの話は「後巷説百物語」へと続く布石的な一話です。この一話がないと「後巷説」に繋げにくいのです。
「巷説百物語」「続巷説百物語」「後巷説百物語」という各々独立した三作品を、三部作という壮大な一篇の物語に仕立て上げると云う、大切な役割を持った挿話と捉えていいかと思います。
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