「ダ・ヴィンチ・コード」ダン・ブラウン (角川文庫)

2012-05-10

海外の作家

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 映画にもなった世界的な話題作「ダ・ヴィンチ・コード」です。私は原作よりも先に映画をすでに観てしまっていて、そのせいか小説の方はずっと手つかずになっていました。
 大方のあらすじ、最後のどんでん返しがわかってしまっている小説など、読んで面白いものか。そういう気持ちから、なかなか読む気になれなかったのです。

 ところが図書館でこれを見つけた時
「あらすじやオチが分かってるけども、どうせタダ。一度読んでみてもいいか」
 ということで借りて読んでみたのです。

 正直驚きました。これまでは推理小説の類を読んでも、どこか楽しめないところがありました。ところがこの「ダ・ヴィンチ・コード」は先が分かっているにも関わらず、面白い。これが推理小説なのか。そんなことを思いながら楽しんで読み進めていけたのです。

「この小説における芸術作品、建築物、文書、秘密儀式に関する記述は、すべて事実に基づいている」
 「ダ・ヴィンチ・コード」は冒頭のこの文言のため、議論を呼び起こすことになったそうです。本作品中で語られる、キリスト教に関する一説に対して否定的立場の団体や個人からの攻撃の的となったんですね。
 実際のところは「すべて」が事実に基づいているわけではなく、想像上のものもあるようです。ですが、事実を一つ一つ積み上げていく中で出てくる空白部分を、想像で埋める形での小説というのはやはり面白い。そこには推理小説という枠を超えて、歴史ロマンのようなものさえ感じられます。


 殺人の容疑をかけられるも、警察の手から逃れる主人公。被害者が残した謎を解いていくことで、自らの無実を証明できるのではないか。そんな思惑から聖杯の謎へと挑んでいくあらすじです。この謎を解いていくさまが推理小説として非常に面白い。
 また、警察の追跡が迫る中で長年の歴史の謎を、事件に巻き込まれてからわずか24時間以内に解いていく。このようなひっ迫した状況から湧いてくる緊迫感にも注目できます。

 映画と小説を比べるというのは、もしかすると意味のないことかもしれません。ただ私と同じように映画をもうすでに観てしまった。小説の方は読む気が起きない、という方には是非読んでもらいたい一冊かもしれません。

 映画ではターミーネーターのごとく、主人公たちに迫ってくる「シラス」という青年。この物語は、この「シラス」こそが本当の主人公であったかもしれない。
 人はなぜ生きるのか。
 この問いに対して、科学は答えてくれない。科学の世界では生きる意味や価値といったものは自分で見つけ、作り上げていくことになります。そうして自分の生を実践していくしかありません。

 対して宗教の世界においては、その意味や価値は神という存在によって保証されています。その教義に沿って生きることで満足を得ることができます。
 神や仏なんぞ迷信だ。人間が理解できないものに対して、その理由を捏造するために用意された偶像にすぎない。
 そう思われる方もいるでしょう。
 また、逆に神がいないという証明も科学ではできない。だからやはり神なる存在はある、と考える方もいると思います。

 「シラス」という青年を考える時、どちらの立場で考えるかで、がらっと印象が変わってくると思います。
 宗教というまやかしに翻弄された、愚かしく哀れな青年と見るのか。神を信じることで、はじめて手に入れた幸せを守ろうとした、誠実で真摯な人間として見るのか。
 映画では、この「シラス」をそこまで掘り下げて描かれてはいません。深く掘り下げてしまうと主人公に取って代わってしまう。映画として狙った面白みがぶれてしまう恐れの方が大きい。故に小説ほどには彼の生い立ちなどは描かれていません。
 映画としては、それで正解だったかもしれません。もし「シラス」を掘り下げて描いてしまえば、それは娯楽映画ではなくなってしまっていたでしょうから。

 宗教や神という存在は時として、また人によって必要なものである。他者と世界に対して、人として向き合えることで得られる幸せや充足感。そんなことも、さらっと考えさせてくれる小説でもありました。

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