「空中ブランコ」奥田英朗 (文春文庫)

2013-05-12

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 前作「イン・ザ・プール」に続く、連作短編小説集です。扱うテーマは現代人の生活において、決して軽い部類のものではないと思います。しかしその割りに、さらっと読めてしまいます。
  全編に渡って描かれる患者の病状は全て、過度の不安から生じたものです。不安の具体的な内容は、各話ごとに異なります。新たな環境や人間関係に対しての不安、自分の仕事や居場所に対しての不安、責任や将来についての不安など、多岐に渡ります。

 患者達は、無意識の内にこの不安という感情に蓋をして、敢えて見ないようにして生活を送ります。しかしそうすることで、却って不安を溜め込んでしまうことになり、不安がより増していきます。

 不安の裏返しとして、警戒心や心のバリヤーといったものが湧き上がってきます。これらは不安が強まれば強まるほど、より強くなります。そして不安とその裏返しである警戒心が度を超すと、強迫症などの病的反応に繋がる、という仕組みが、物語の中での基本的な解釈のようです。

 現実においても同様の不安は誰しもが、程度の差こそあれ、抱えているのではないかと思われます。
作中では明確な解決策は提示されません。何せ伊良部という精神科医は、精神年齢5歳児と思えるような振る舞いをして見せるような人物ですから。ただ部分的に、私なりに解決策ではないかと読み取れたところを、羅列する形で並べ述べてみようと思います。

 まず不安とは、吐き出すべき感情だということ。そして自分が不安を抱えている、ということを自覚すること。不安を抱えてしまうような弱さが、自分にもあることを認めること。弱いからこそ、みんな精一杯突っ張って生きているんだ、ということに気付くこと。以上を踏まえつつ、次に行きます。


 さて不安を吐き出すとは、どのようにすればいいのか、です。作中では、対話こそが、その鍵を握っているようです。対話、すなわち言語化することで不安の正体が認識できるようになり、正面から向き合えるのかもしれません。

 また最終話「女流作家」では、次のような文章が見られます。
「負けそうになることは、この先、何度もあるだろう。その都度、いろんな人やものから勇気をもらえばいい。みんな、そうやって頑張っている」

「人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ」
 もちろん、このような方法が、唯一絶対の解決策という訳ではないでしょう。しかし、映像文化にどっぷり浸かってしまっている私たち現代人にとって、このような対話による不安の解消方法は、解決策の一つではないかと思われます。

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