「イン・ザ・プール」奥田英朗 (文春文庫)

2013-05-23

その他の著者

t f B! P L


 アニメ化された際のタイトルが「空中ブランコ」だったので、こちらの「イン・ザ・プール」の方が続編かと思ってました。どうやら「イン・ザ・プール」の方が先だったようです。
伊良部総合病院地下の主、精神科医伊良部一郎。

色白のデブでマザコン。図太い神経の持ち主であり、そのためか身なりを気にしないところがあり、ボサボサの髪にはフケがある。なのにナルシストな上に注射フェチ。そんな破天荒な伊良部ののもとに訪れる患者達。

プール依存症、陰茎強直症、被害妄想癖、携帯電話依存症、強迫神経症、これら5人の患者を果たして伊良部一郎は救えるのか。

 伊良部一郎は特に治療らしいことを、患者に対して何もしません。でも最後には救われていくというラストが待ってるんです。
 明らかに患者よりも、治療する側の伊良部の方がおかしい人物というのがポイントです。

 5人の患者はいずれも世間一般的には心の病を持つ人たちという位置にいるのですが、実際には今の日本社会において、誰しもが陥りかねない心の落とし穴に足を絡め取られただけの、至って普通の人たちだと考えるべきかと思います。
 逆に伊良部のように人の目を気にせず、自分の思うままに振舞って生きることの方がよほど困難ではないでしょうか。


 人は日常生活を送る際、自分でも気づかない内に自分で勝手に決めた価値判断などを元に考えたり、行動したりしてると思います。
 例えば、自分はダメな人間だと自信をなくしてる人に、どういうところがダメなのかと問えば、その人がどのようなことに対して価値を認めているのかわかります。仕事が上手くいかない、人間関係が上手くいかない、だから自分はダメ人間だ、というようにです。

 その答えに対して、ではなぜ仕事が上手くいかないことや、人間関係が上手くいかないことがダメなことなの? 別にいいじゃないの、仕事が上手くいかなくても、人間関係が上手くいかなくても、と返したとします。

 こういうと、いや仕事や人間関係は大事だろ、と反論される人もいるかと思います。それに対して私は、まさにそれこそがあなたの思い込みです、と答えます。
 思い込みという言い方が悪いかもしれないので言い換えますと、仕事や人間関係は大事という価値判断に頼って生きている証拠、と指摘できるわけです。

 当然そういう価値判断に至るまでに、いろんな経験をされた上でそう口にしているんでしょうが、あくまでそれはその人個人の経験だけに基づくもので、いわば長い年月をかけて心の鎧に厚みを加えてしまった結果だとも言えます。

 自信家でその根拠が自分は仕事ができる、お金を持っているという人の場合は、非常に落とし穴に嵌りやすいです。その根拠を失うことに対しての不安を抱えてしまったり、また失ってしまった時、他に何も見えなくなりがちです。

 伊良部一郎が対峙する患者たちは、そういうごくごく普通の一般人たちです。伊良部一郎は、その心の鎧を脱がして、そんなものがなくても生きていける、ということを教えている、ただそれだけなんですね。

このブログで探す

最新の記事

プライバシーポリシー

当サイトでは、Googleアドセンスなど第三者配信の広告サービスを利用しています。このような広告配信事業者は、ユーザーの興味に応じた商品やサービスの広告を表示するため、当サイトや他サイトへのアクセスに関する情報 『Cookie』(氏名、住所、メール アドレス、電話番号は含まれません) を使用することがあります。 またGoogleアドセンスに関しては、このプロセスの詳細およびこのような情報が広告配信事業者に使用されないようにする方法について、こちらで詳細がご確認いただけます。

アクセス解析ツールについて

当サイトでは、Googleによるアクセス解析ツール“Googleアナリティクス”を利用しています。 このGoogleアナリティクスはトラフィックデータの収集のためにCookieを使用しています。 このトラフィックデータは匿名で収集されており、個人を特定するものではありません。 この機能はCookieを無効にすることで収集を拒否することが出来ますので、お使いのブラウザの設定をご確認ください。 この規約に関しての詳細はこちらをご確認ください。

連絡フォーム

名前

メール *

メッセージ *

QooQ