人気作家、小野不由美による長編ホラーです。作者や知人の周辺で実際に起きた出来事を巡って、その原因を調査する、と云う筋立ての小説です。その調査は土地や建物の過去に遡って、主に当時を知る人々へのインタビューと云う形で行われます。そこで何かあったのか、あったならそれはどんな事だったのかを訊いて回るという訳です。
至る結論としては、強い無念や怨みを伴った死は「穢れ」となって、人に障るというものです。この「穢れ」が怪異を発生させ、また人や物について伝染し、拡大していくと云う訳です。
興味深い点は、祟りや呪いの行為者がすでに形を伴っていなくても、無形の怪異とも言うべき「怪異性」が新たな怪異を産出してくる、という論でしょうか。
例えば「トイレの花子さん」という、よく知られる学校の怪談があります。どこの学校でも、同様の怪談があります。実際にどこかの学校で、謂れとなる事故なり事件なりがあったのかもしれません。しかし、全ての学校で同じような事件が一様にあったとは考え難いです。すなわち当の学校自体には「花子さん」にあたる人物や怪談の謂れとなる事故・事件が過去に存在していないにも関わらず、怪談だけがある、というケースを考えます。
残穢(ざんえ) (新潮文庫)
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この手の怪談は不思議なことに、この怪談を話した者、聞いた者に限って、その身辺で怪異が発生するというパターンに至ります。怪を語れば怪至る、というパターンと呼べばいいでしょうか。話自体が怪異性を帯びて、「この話を聞いた者は、何故かみんな不運に見舞われる」と云った怪異として再生産される訳です。ですが、そこには最早「花子さん」が実際にいたかどうかは問題ではありません。「この話」自体が怪異を引き起こす訳ですから、供養をしようにもその対象がないので、怪異としては始末に悪いタイプの怪異と言えるでしょう。
この小説そのものが怪異性を帯びて、怪異を呼び寄せてしまう触媒となり、読み手の元に怪異が伝染するかもしれない。そんな風に思わせる、と云う狙いが小野氏にあったのかどうか、私には到底分かりません。ですが恐らくは、そういう意図はなかったと思います。そこが残念です。
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