「あすなろ物語」井上靖 (新潮文庫)

2013-02-15

井上靖

t f B! P L


「明日は檜になろう、明日は檜になろう、と一生懸命に考えているにも拘らず、永久に檜になれない木。だから、あすなろ」それが翌檜の名の由来、という俗説があるらしいです。
 この物語で描かれるのは、その翌檜同様に「明日は檜になろう」と、懸命に生きる人々の姿です。

 物語で言われる檜も翌檜も暗喩です。そしてこの暗喩を解き明かす鍵は、檜にあります。檜あるいは檜のような人間とは、どのような人物像を指しているのかについて、考えてみます。

 物語の筋に沿って拾っていくと、それは一角の者、他人より優れた者、名を挙げた者、あるいは想いを寄せる相手を伴侶にすることであったりします。包括的に捉えると、自分をより程度の低い者と位置付け、それをして翌檜と呼び、一方、自分の理想とする姿を檜と見做した比喩です。そうすると、檜とは各人各様に姿を変える、実体を持たないものだと言えます。

 自分が檜か翌檜なのかの判定は、主観における相対的判断で為されます。例えば物語では、「勝敗」の章における鮎太と左山の関係が分かり易いかもしれません。互いに相手を檜、一方、自分は翌檜と見做して、二人は切磋琢磨する訳です。


 現実と理想の板挟みの中で、理想の自分の実現に向けて、足掻きながら生きる人々の姿を描いた物語、それがこの「あすなろ物語」だと思います。

 これはこれでいいと思うのですが、一方、今の自分を「これでよし」と認める生き方もいいのではないでしょうか。まだそこにない自分を追い求める生き方を、否定はしません。しかし、今、そこにある生身の自分を認め、今を充実させる生き方もあると思います。
 思うに、人が生きるとは、どういう生き方であれ、必死に今を足掻くことに他ならないのでしょうから。

このブログで探す

最新の記事

プライバシーポリシー

当サイトでは、Googleアドセンスなど第三者配信の広告サービスを利用しています。このような広告配信事業者は、ユーザーの興味に応じた商品やサービスの広告を表示するため、当サイトや他サイトへのアクセスに関する情報 『Cookie』(氏名、住所、メール アドレス、電話番号は含まれません) を使用することがあります。 またGoogleアドセンスに関しては、このプロセスの詳細およびこのような情報が広告配信事業者に使用されないようにする方法について、こちらで詳細がご確認いただけます。

アクセス解析ツールについて

当サイトでは、Googleによるアクセス解析ツール“Googleアナリティクス”を利用しています。 このGoogleアナリティクスはトラフィックデータの収集のためにCookieを使用しています。 このトラフィックデータは匿名で収集されており、個人を特定するものではありません。 この機能はCookieを無効にすることで収集を拒否することが出来ますので、お使いのブラウザの設定をご確認ください。 この規約に関しての詳細はこちらをご確認ください。

連絡フォーム

名前

メール *

メッセージ *

QooQ