「覚悟はあるか?」と、この物語は読者に問い掛けてきます。
後に書かれた「モダンタイムス」では、この後の世界が描かれます。
そこでは「魔王」と対照的に、「勇気はあるか?」と問い掛けられます。
飽くまで虚構とは分かっていても、現在の日本の有様を予言したかのような、本作の内容に驚かされます。
それは、現在の社会や政治から滲み出る不穏さ、とでも言うようなものを突きつけられるような感じです。
みんなが良かれと思ってすることが、気付かない内にじわじわと、逆にみんなを悪い方向へ向かわせてしまう。
気付いた時には手遅れで、自分も含めてみんなが、悲劇や惨劇を生み出す原動力となっている。
そんな状況を暗示する物語です。
作中の会話の中で、宮沢賢治の「注文の多い料理店」が出てきます。
これが「魔王」のモチーフを象徴していると思います。
そのような四囲の人々が作り出す、大きくうねる奔流に対して、私達は何ができるのでしょうか。
安藤兄はその流れに飲まれはしなかったけれど、一石を投じることもできずに命を落とします。
彼にできたことは、流されないことだけでした。
流れを止めることも、変えることもできなかったのです。
安藤弟は、流れから距離を取ることで、飲まれることを避けました。
ですが矢張り流れをどうにかするには至りません。
後に彼は、人間一人の力の無力さを認めた上で、個人の力ではどうにもできないことも、お金の力なら何とかできることもある、と云うことに思い至ります。
魔王 (講談社文庫)
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自分が何をしようとしているのか。
自分のしたことが、どんな結果や未来を招くのか。
自分に今できることは何なのか。
それらを考えて行動しろ。
そしてその結果がどんなものであれ、全て自分の選択の結果であり、責任は自分にある、と云う覚悟を持って行動しろ、と私達に迫ってきます。
今の私達に、果たしてその覚悟はあるのでしょうか。
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