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京極夏彦氏の「百鬼夜行シリーズ」のスピンオフ小説で、シリーズ最大の謎の怪人・榎木津礼次郎が主人公の中編集です。「鳴釜(なりかま)」「瓶長(かめおさ)」「山颪(やまおろし)」の三編が収録されています。
「鳴釜(なりかま)」あらすじ
妹のように思っていた姪の早苗が首吊り自殺を図った。
紐が切れたお陰で未遂に終わったとはいえ、僕は犯人が許せなかった。
だからと言って、どうこうしようという考えはなかった。
犯人はわかっていた。
相手は通産省官房次官の息子つまり官僚の息子だ。
訴えたところで勝ち目はない。
ただ誠意のこもった謝罪の言葉、真摯な反省と悔悟の表明、そういうものを早苗に見せて欲しかったのだ。
だが彼らは被害者であるはずの早苗を穢らわしいものを見るようにして、まともに相手にしようともしない。
僕は遣り切れなかった。
苛立ちが
――じわり。
――じわり。
と胸の内、腹の底、身体の芯、
いやもうどこからなのかわからない、身体全体からなのか、どす黒く芽吹いてくるのだけがはっきりとわかった。
その時――。
「馬鹿かお前達は」
彫像のように顔の整った長身の男が口を開いた。
「悪い奴は退治するんだ」
こうして僕は事件を解決しない探偵・榎木津礼次郎に今回の依頼をすることになるのだった。
「瓶長(かめおさ)」あらすじ
「カメだカメ。カメを探せと云うことだ!」
榎木津礼次郎は機嫌が悪かった。
どうやら父親にカメを探すように依頼されたらしい。
聞けば、日タイ通商協定を控えた大切な時ということもあり、タイ国との国際的な問題に発展しかねない話なのである。
榎木津の父親の部下が、タイの王族に連なる身分の高い人物が所有する甕だか壺だかをうっかり割ってしまったらしい。
そこでお詫びに代わりの壺を贈ったところ、全然気に入らなかったらしく、割ったものを元に戻せとまでは言わないが、せめて同じものを寄越せと言ってきたらしい。
それが砧青磁の甕だと言う。
さて榎木津一味たちは目当てのカメを無事手に入れることができるのか。
「山颪(やまおろし)」あらすじ
先日の大磯事件のあらましを聞きたかっただけだというのに、意地汚い野次馬根性が災いしたのか、何故か僕は事件に巻き込まれることになった。
箱根から下山した常信という和尚は、旧知である亮沢和尚に電話をしてみたところ一向に話が通じない。
どうもいろいろ腑に落ちない。
そこで榎木津に事情を話して事の真相を調査してもらうつもりだったらしい。
ところが榎木津は先の大磯事件の件で多忙なため、常信とは知らぬ間柄ではない京極堂が代わりに手掛けることになったのだが、およそ何の関係のない僕まで一役買う羽目になるのだった。
文庫版 百器徒然袋 雨 (講談社文庫)
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物語中の事件は「百鬼夜行シリーズ」に比べて血生臭さはありません。強姦事件、詐欺事件、美術品窃盗団の悪事を、勧善懲悪ならぬ「勧榎木津懲悪」で解決していきます。
ですがただの推理小説や犯罪小説のように、単純に事件の犯人達にお仕置きをしていくわけではありません。そこはやはり「百鬼夜行シリーズ」のスピンオフです。妖怪が出てきます。正確には妖怪になぞらえて退治する、と言う方が的を射てると思います。
出てくる妖怪は鳥山石燕の妖怪画集「百器徒然袋」からの登場となり、ここで表題が絡んでくるわけですね。
「百器徒然袋」に納められている妖怪は、「器」の文字が示唆する通り付喪(九十九)神です。この付喪神に纏わる逸話をいつものように京極堂の薀蓄が肉付けし、いつもと変わらず支離滅裂な榎木津礼次郎が傍若無人に解決、いや悪者を退治していくという筋ですね。
推理小説というよりもむしろ特殊な能力を持つ榎木津だからこそできる、悪者を妖怪に見立てた破天荒な退治劇でした。
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